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【TCシンポジウム2024 登壇レポート】WebマニュアルやFAQ、「作って放置」じゃもったいない! 〜分析・改善で新たなプロフィットの創出へ

2024年10月9日〜11日の3日間、「テクニカルコミュニケーションシンポジウム」(主催:一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会、以下「TCシンポジウム」)が京都リサーチパーク(京都市)にて開催されました。

当社はこのイベント内のパネルディスカッション「WebマニュアルやFAQ、「作って放置」じゃもったいない! 〜分析・改善で新たなプロフィットの創出へ」(10月11日)に、Pionira Solutions合同会社様の進行の下、株式会社LIXIL様、キヤノン株式会社様とともに登壇しました。

「TCシンポジウム」は、テクニカルコミュニケーションのあり方やコミュニケーターのスキル向上について知見を共有し議論する日本で唯一のシンポジウムで、学会に準じた全員参加型イベントです。主にメーカーや制作会社で取扱説明書の作成に関わる方々の情報交換の場となっています。


G会市議室 10月11日(金)10:00~12:30 TC20WebマニュアルやFAQ、「作って放置」じゃもったいない! 〜分析・改善で新たなプロフィットの創出へ

登壇者:
Pionira Solutions 合同会社 粕渕 清孝様(※司会)
株式会社LIXIL 長崎 浩之様(カスタマーサービス統括部 サービス改革推進部)
キヤノン株式会社 蜷川 怜様(デジタルプリンティングシステム開発センター ユーザ情報メディア第二設計部)
株式会社Helpfeel 洛西 一周(代表取締役/CEO)

多大な工数をかけて作成したWebマニュアルやFAQ。
しかし、公開そのものがゴールとなってしまい、使われ方の分析とその後の改善にまで手が回らない… という企業も多いのではないでしょうか。今回のパネルディスカッションではこのような状況を踏まえて、主に以下の切り口で発表・議論を行いました。

  • WebマニュアルやFAQの、公開した後の使われ方をどのように分析するか

  • その分析からわかったことを、次の改善にどう活かすか

  • コンテンツの改善だけにとどまらず、企業の利益(プロフィット)を生み出すにはどうすべきか

当日は約60名収容の会議室で椅子が足りなくなり、追加席を運び込むほどの大盛況。マニュアルやFAQに関わる方々にとって、「分析と改善のサイクル」が重要な関心テーマであることがうかがえます。

第1部
「分析」と「改善」はマニュアルやFAQ部門の重要なミッションの一つ

まず3名のパネリストから自己紹介とそれぞれの業務テーマ、そして本日の論点が発表されました。

「コスト削減と顧客接点維持の両立を目指し、電話からWebへのチャネルシフトを目指しました」(LIXIL 長崎様)

長崎様のご所属部署ではカスタマーサービスに関する各部の横串を通した活動をしており、購入者のジャーニーの中で適切な情報を届けることをミッションとしているとのこと。

ここでFAQ改善に取り組んだのは、年間120万件にもおよぶ膨大な電話問い合わせへの対策のためでした。

株式会社LIXIL 長崎様
株式会社LIXIL 長崎 浩之様(カスタマーサービス統括部 サービス改革推進部)

「人件費やフリーダイヤル費用などがかさむ中、コスト削減は大きな課題。ただしお客様との接点は減らしたくない。そこで、DXの進展もあり、電話からWebへのチャネルシフトを促進すべきと考えました」

「LIXILは5社が統合してできた企業ですが、課題に着手した2021年当時のFAQは旧5社の寄せ集めの状態で、検索性やコンテンツの質、システム運用に課題が山積していました。専門用語などメーカー側の事情の押し付けや、担当者への属人化の問題もありましたし、使われ方の計測もできていない状態でした」

こうした状況を解決するため、まずはFAQシステムをリプレイス
このリプレイスに伴う各種の活動を経て、KPIの各指標は大きく変化し、分析と改善を回すサイクルを確立できたとのことです(なお、ここで選んでくださったFAQシステムが「Helpfeel」でした)。

「Webマニュアルのアクセス分析やコールセンターとの意見交換で、改善のサイクルを回しています」(キヤノン 蜷川様)

プリンターの開発部門でマニュアル制作を担当されている蜷川様からは、製品に付属するマニュアルの構成と、その制作工程が紹介されました。

「分析と改善」はマニュアル部門の重要なミッションの一つであり、部門をまたいだ分析イベントを定期的に開催し、それをもとに次の施策を検討しているそうです。さらに、マニュアル改善にとどまらず、「ハードやソフトなど、製品への根本的な仕様改善提案」に力を入れているとのこと。

キヤノン株式会社 蜷川様
キヤノン株式会社 蜷川 怜様
(デジタルプリンティングシステム開発センター ユーザ情報メディア第二設計部)

「印刷アプリのデータを分析すると、TOEIC試験の前には証明写真の印刷が増えるといった事実がわかります。こうしたデータ分析に加えて、コールセンターにかかってくるコール内容の分析や、VoC(Voice of Customer)に関する意見交換会を定期的に行っています」

「意見交換の場では、データだけでは伝わらないことがいろいろとわかってきます。これらの活動の中で、コールセンターからは『こんなページを作ってほしい』、マニュアル部門からは『このページをぜひお客様にご案内してほしい』など、相互に提案を行なっています」

「当社のテーマはナレッジギャップの解消。そしてテクニカルライターをプロフィットセンターにしていくこと」(Helpfeel 洛西)

当社代表 洛西からは、検索ツールを通じての分析と改善のヒントと、Helpfeel社が解決したい社会課題について説明。

「Helpfeel社が解決したい課題は二つ。一つは、情報の送り手と受け手、企業と顧客の間のナレッジギャップ(知識格差)を、テクノロジーの力で解消すること。もう一つは、カスタマーサポートやテクニカルライターの役割を、コストセンターからプロフィットセンターに変えていく。効率化だけでなく、ナレッジワーカーとして価値がありプロフィットに貢献できる仕事にしていくこと」

ナレッジギャップの解消のためには「自己解決」が重要であり、その一助になる例として、当社プロダクトHelpfeelのデモを交えながら説明しました。

Helpfeel 洛西
株式会社Helpfeel 洛西 一周(代表取締役/CEO)

「Webで疑問を調べようとした人のうち、実際は3割の人しか解決できておらず、結局7割の人は電話しているというデータもあります。またHDIのカスタマーサポートの格付けでは、コールセンターだけでなくWebサポートも対象にするようになってきており、『Webで解決できること』が企業の評価指標にもなってきました。自己解決率があがることは、顧客にとっても快適で幸せなことであり、企業にとっても利益につながります。まずは負担を小さくサイクルを回すところから」

3人のパネリストからいずれも「分析・改善」がキーワードとして語られ、分析の入り口としてGoogle analyticsも紹介されました。

第2部
「分析」の先へ。製品仕様自体を改善する例も

司会とパネリスト3名が並んで座っている

休憩後の第2部では、各社の実際の改善事例が紹介されました。

「LIXILのFAQ活動で重視しているのは顧客視点問い合わせに至った背景(コンタクトリーズン)が重要」と長崎様。

「顧客の知りたいことは、企業が用意している情報の中のどこにもないのか、あるのにたどりつけないのか?
また、商品やサービスそのものの問題なのか、情報の表現の問題なのか?そうしたことを考えて、①顧客が自分で探し出せること、②自己解決できること、③最新の情報に更新されていること、を目標に設定しました」

「コールセンターやショールームからは、月に10万件の情報が入ってきます。これをテキストマイニングツールにかけ、製品軸や使用軸などさまざまな観点で分析します。ここから深掘りし、問い合わせが多い事象については、解決策がちゃんとFAQに存在しているか、たどりつけるか、わかる説明になっているかを検証し、内部のFAQ管理規定に照らして要対応となったら更新します」

私たちのVOC分析について

お客様の期待や心理など定性的なデータを製品に反映するのは難しいことですが、最近では『トイレの蓋を閉めた後に洗浄するモード』の例があります。コロナ禍で「蓋をした後に流す」という習慣ができたことから開発に反映された例です」

「KPIを追うことで、FAQに誘導するリンク文言で誤解を与えていることがわかったり、no hit率を見ることで、「クレジットカード」という検索ワードからオンラインストアとの連携を見直すなど、地道に一件一件問題を潰していきます。こうしたことで、お客さま相談センターへの問い合わせは年々10%ずつ減少してきました」

続いて、蜷川様からはマニュアル部門主導で製品仕様自体を変えた事例の紹介がありました。

「数年前のプリンターでは、CD印刷用のトレイを本体の間違った場所に挿入してしまうことによるエラーが多発していました。この対策のため、Webマニュアルではイラスト表現を変更したり、動画を作成したりして正しい操作方法をわかりやすくする改訂を行いました。コールセンターでも、この変更後のページをご案内することで説明しやすくなったという感想をいただきました」

「ただ、根本的には仕様から改善を図るべきと考え、設計部門と協力して、最新機種では誤挿入を防止する仕様に変更されました。これに伴い、エラー対策ページのビュー数も減ってきていることが確認できています。エラー対策のページがいつまでも見られていることがよいわけではない、という例です」

分析と改善の事例

Webマニュアル内のFAQページも、アクセス状況の分析をもとに、特定のワードをピックアップしたり、ニーズがあるページをトップ6として配置したりなどの工夫をしました。トップ6で全体の3割のビュー数になっています」

「マニュアルを改善しただけでは、お客様の悩みやコールセンターの問題は解決しません。マニュアルは必要ですが、見ないで簡単に操作できることがもっともよく、究極はマニュアルレスを目指して活動しています」

そして、当社 洛西からは、自己解決をどのように計測するか、KPIをどのように設定するかの考え方と、実際のFAQ記事をどのように作るとわかりやすいかの例を提示しました。

「問題解決のために、まずFAQやマニュアルへの誘導の動線が重要です。問い合わせが発生する場面を考えてそこに誘導を置く。電話番号を表示する前に『よくある質問』を置くなどの手法があります」

「また、カテゴリ型よりも検索型が有効です。カテゴリ型では、探す情報がどのカテゴリにあるかわからないという問題があり、作成者の意図を押し付けるとユーザーは探せなくなります」

「同じものに対しても、ユーザーが使う言葉はばらばら。ユーザーが使いそうな言葉は何か、想像力を逞しくして質問文を工夫していきます」

また、記事に到達した後の工夫として

  • 結論ファースト

  • 用語ページの拡充

  • 質問が違っても回答が同一なら1ページにまとめる

といった「わかりやすさのためのテクニック」が紹介されました。

最後の質疑応答では、終了時間ギリギリまで質問が続きました。
主に「分析」に関わるご意見・ご質問が多く、マニュアルやFAQに関わる方々にとって「分析」が大きなテーマであり、重要性を感じながらも試行錯誤の途上にあることがうかがえました。

自己解決数向上のためには
FAQの分析画面

新たなプロフィット創出を目指して

LIXIL様、キヤノン様それぞれの事例は、FAQやマニュアルが単なる「コスト」ではなく、企業に「利益(プロフィット)」をもたらすナレッジツールになれる、という示唆に富んでいたように感じます。

Helpfeelはこの「利益(プロフィット)」を生み出すための仕組みの一つとして機能するよう、プロダクトとサービスの改善に今後も尽力してまいります。

ご登壇社のみなさま
ご登壇のみなさまとともに。
(左から:司会・粕渕様、LIXIL・長崎様、キヤノン・蜷川様、Helpfeel・洛西)

貴重な機会をいただき、ありがとうございました。


当社の当日発表資料をご要望の方は、下記へご連絡ください。
tw-pr-operation@helpfeel.com

企画:河端歩未、成田博子 執筆:四下朋子 撮影:花房篤史 デザイン:新井勝